彼方には四国山脈が連なる、ほとんど360度の視界だ カルスト大地に立つと不思議な光景に出会う。道の正面に飛行機のプロペラ型をした
巨大な風車が回っている。高地特有の山霧が流れる中、この光景に出くわした時には、
一種不思議な感じにとらわれた。SFとも違う、そうかと言って、おとぎ話のようなロマンチックな
ものでもない、表現のしようがないような実に不思議な光景だった。この思いは、予期せぬものを
見たときに抱く、戸惑いのようなものとでも言い表せば良いのだろうか。
風車は音も立てずにゆっくりと回っていた。霧が瞬く間に風車を包んでしまう。しばらくすると、
又、霧が晴れて風車が巨体を表す。ここは大きな風の通り道のようだ。私達が準備を整え
歩き始めた頃には、霧も次第に薄らいで風車はくっきりとその姿を現した。
巨大な風車が2基、霧の中に立っていた ここは四万十川の源流とも言われている四国カルスト大地。馬の背のような大きな丘陵地の
地下にはおびただしい穴が開いており、大地に降った雨は地下水となって、石灰岩を溶かして
大河へと流れ下っていく。
私と家内は、友人の奥さんがこの地で開かれるマラソンに参加すると言うことで、車に同乗
させて貰い、この地を訪れた。2000年7月16日(日)の事である。この日は日帰りであった事と、
マラソンへの参加時間が早かった事もあって、早朝5時出発であった。瀬戸大橋を渡り、
高知自動車道に入った。早朝でもあり、車の混雑などもなく実に快適な旅であった。
カルスト台地の山裾に入り、参加者と思われる車がにわかに増えてきた。細い九十九折りの
道を上へ上へと登っていく。長い山道を登り切ったところがカルスト大地だった。
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風車の下には広大な牧場が広がる、後ろのカルストは自然が刻んだ巨大な彫刻だ ここは早くから開拓者が入植し、山林を切り開いて牧場にしたもののようだ。従って、その昔は
森林の中にあって、今日のように見晴らしの良いものではなかったらしい。周辺部も同じ様な
地層と思われるが、全て森林となっている。現に、この大地も山頂部が開けた草原になっている
のであって、山裾の方は植林や雑木林で埋め尽くされている。
マラソンは起伏の多い、この山の尾根を走り、尾根の中腹がゴールとなる厳しいコースであった。
老若男女という表現が適切かどうかは分からないが、色んな年齢層の男女が参加していた。
中には江戸時代の旅装束のような人もいて、この大会が単に記録を競うものだけではなく、
参加型の大会のようでもあった。
私達は友人の奥さんのスタートをカメラに収めた後、大会が終了するまでの間、周辺を
散歩した。先ほどの大きな風車の下まで行ってみた。離れたところでは、ほとんど聞き
取れなかった羽根が風を切る音や、発電機を廻す音がかすかに聞こえていた。風車は
二台並んで立っていた。一台の発電電力は500kwと言う表示が制御板に書かれていた。
私達が見たときには何故か発電はしておらず、0kwであった。風車の下に立つと余計
その巨大さが実感出来る。
カルスト台地は高原のお花畑だ 台地には夏の花が咲き乱れ牛が草を食んでいる。露出して雨に削られた石灰岩が
彫刻の像のように立ち並んでいる。この日はマラソンの参加者だけでなく、多くの観光客が
来ていた。早朝、冷え冷えしていた空気も時間がたつに連れ、次第に暑くなってきた。
休憩所の近くには特設の売店も設置され、ヤマメの塩焼きを売っていた。高原を渡る風は
実にさわやかだ。私達は草原に腰を下ろしてヤマメを頬張った。短距離コースを走った人達は
一足先に戻ってきたようだ。
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高原には様々な花が咲いていた 見晴らしの良い高台に立って広々とした周辺の景色をながめていると、ふと「風の谷のナウシカ」の
映画の事を思い出した。ナウシカが深い谷の上を滑るように飛んで行く。ナウシカは風に乗り、
すいすいと大きくスイングしながら飛んでゆく。遥か彼方に小さく自分の住む村が見えてくる。
そんな牧歌的な映画の中の景色と、目の前の景色が交錯して見えてくる。
相変わらず大きな風車は悠然と回っている。高原を吹き抜ける風の中で音もなく静かに。
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