8月のメモワール

久々に社会派のアメリカ映画を見ました。「8月のメモワール」というアメリカ映画です。正月にDVDをレンタルして
いました。返却日ぎりぎりになって鑑賞しました。私の好きなケビン・コスナー主演の映画でした。余談になりますが、
ケビン・コスナーの雰囲気が中学校時代の恩師に似ていて、彼を見るといつも先生のことを思い出すのです。先生も
又、正義感の強い人でした。
時代はベトナム戦争後のアメリカ、舞台は人種差別の色濃く残っている南部の小さな町です。四人家族のお父さん
(ケビン・コスナー)はベトナム戦争で唯一の親友だった友達を戦場に置き去りにしてしまいました。自分も生きるか
死ぬかの瀬戸際での事でした。戦場という異常で非常な状況の中では、ありふれた出来事ではないでしょうか。人の
ことはかまっておられない状況というのは良く理解出来ます。大岡昇平の「野火」という小説を読んでみて下さい。その
状況が詳しく書かれています。
その悔いが心の傷となってお父さんを苦しめます。ベトナム戦争では意味のない戦いで多くの兵士が心に傷を負った
と言われています。お父さんには貧しくとも心通う家族がいました。優しい妻とおてんばで男の子のような長女、そして
腕白で向こう意気の強い弟の四人です。周辺もみんな貧しい南部の生活です。娘の友達は黒人で性的な虐待を受けて
いる娘や両親を亡くした女の子達です。学校も遊びも、みんな荒んだ状態の中にあります。そんな環境でも、お父さんは
子供達には、心優しく、目的を持って、夢を諦めない、たくましい人間に育って貰いたいと思っています。
お父さんのささやかな夢は定職を持って、自分たちが住む家を手に入れることでした。しかし、せっかく手にした職は
危険な石切場の仕事でした。洞窟の中で落盤事故があり、同僚が大きな石の下敷きになってしまいました。お父さん
の心には見捨ててきた、あのベトナム戦争時の親友の姿と、今、石の下で苦しんでいる同僚とが、だぶって見えたに
違いありません。同僚を助け出している内に、自分も落盤事故に巻き込まれてしまいます。
少年達、腕白仲間は大きな木に自分たちの砦を作っていました。少年は、その小屋を完成させることがお父さんの
怪我の回復に繋がると考えていたのかも知れません。お父さんの命が一進一退にある時、取り憑かれたように作り
上げていきます。完成して間のない頃、お父さんの命は尽きてしまいます。少年は不幸を背負って死んだ父のことを
思い、神様は何故こんなむごい仕打ちをするのかと恨みます。やり場のない腹立たしさが、少年の心を荒んだもの
にしていきます。
傷心の少年達のところに対立するグループが小屋を乗っ取りに来ます。こうして砦を巡って両者の攻防が始まり
ます。子供達同士の小さな戦争です。しかし、その最中に少年はふと生前に父が話してくれた言葉を思い出します。
お父さんは「争いからは何も生まれてこない」と教えてくれました。「愛こそが相手と仲良くなる唯一の方法」だと教え
てくれました。こんな喧嘩の最中に、対立相手の小さな子が貯水槽に落ちて、大きな渦に巻き込まれてしまいます。
少年は我をも顧みず渦の中に飛び込みます。九死に一生を得るような思いをして助け上げたのですが、すでに息は
止まっていました。お姉さんが駆けつけ必死で人工呼吸をしました。小さな子は死の渕から息を吹き返しました。腕白
少年にとって一夏の色んな出来事は、お父さんと過ごした大切な思い出に繋がる事ばかりでした。そして、生前に
お父さんが望んでいたような心優しいたくましい少年に成長していました。
お父さんが亡くなって何日かが過ぎた日の事でした。お父さんが生前に欲しいと言って交渉していた家が、お父さん
の落札通りの価格で売ってくれることになったのです。お父さんの死を悲しむあまり神様を恨んでいた少年にとって、
お父さんの魂の存在を身近に感じるような出来事でした。お父さんが生きていた頃、お父さんと少年がこっそり見に
来たことのある家だったからです。
「8月のメモワール」は夏休みが終わった新学期になって、お姉さんが書いた作文として教室で発表されたものです。
時あたかもイラク攻撃が画策されているときです。アメリカにとって、ベトナム戦争のような事にはならないと踏んで
のイラク攻撃です。戦争を指示したものは戦場には行きません。戦場で苦しむのは兵士と戦争相手です。この攻撃に
よって50万人とも言われるイラク人が傷ついたり亡くなるのではないかと推測されています。
アメリカは過去を反省することなく、また、イラク攻撃をするというのでしょうか。イラクがどんな国家体制であろうと、
国の指導者がたとえ独裁者であろうと、関係のない人まで傷つける理由にはなりません。色んな理由を付けてイラク
攻撃を画策しているブッシュ大統領に是非見せたい映画の一つです。戦争からは何も生まれてきません。いかなる
理由があろうともいったん戦争になったら、戦争は戦争を始めた人間の意志とは関係なく動き始め、人間自身を傷つ
け苦しめます。ベトナム戦争もそうでした。意味のない戦争にかり出された多くのアメリカ兵達は体だけでなく心まで
傷ついて帰ってきたのです。もちろんベトナムの人達は自分たちの国が戦場になったのですから、アメリカ兵以上に
傷ついたに違いありません。
2003年1月18日掲載
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