生き物の時間

鶴は千年、亀は万年と言います。鶴亀は昔からおめでたい生き物として崇められて来ました。と同時に長生きをする
生き物の象徴のようにも言われて来ました。そんな訳からでしょうか、尚更、おめでたい生き物と言われて来たようです。
しかし、自然界で植物を除けば万年も千年も生き続けることが出来るものはいません。人間で高々百年、象など長生き
だと言われる動物でも寿命は6、70年くらいだと言われています。ましてや、これだけ自然環境が厳しくなれば寿命だけ
生きることさえ難しいと思われます。
さて、このように寿命の長さが生き物にとっての時間になっています。犬や猫などは十数年が平気寿命だと言われて
います。従って、人間の時間に置き換えますと十年を過ぎた犬や猫は壮年期から老年期にさしかかったところだと
言えます。ネズミの寿命はもっと短いはずですから世代交代のサイクルも早く、ネズミの持っている時間は犬や猫より
もっと早いはずです。
このように考えていきますと、生き物それぞれが持っている時間は異なるようです。人間には人間の時間があり、
犬には犬の時間があるのではないでしょうか。もちろん生き物にはもっと小さな生き物もいます。蟻のような昆虫や、
更には微生物と言われる酵母やカビ、細菌のようなものに至るまで時間は様々です。
私はビールを作った事があります。午前中仕込んだものが午後になると猛烈に発酵を始めます。ほぼ一週間で
発酵は終わりますが、その間の劇的とも言える変化は目を見張るものがあります。私のサイトの中でも紹介をして
いる「カスピ海ヨーグルト」ですが、このヨーグルトの発酵でも同じ事が言えます。この場合はビールの発酵よりは
更に反応が早いようです。
私の仕事の一つに廃水処理があります。ここでも微生物を使って工業廃水の処理を行っています。工業廃水は
量の多いときもあれば少ないときもあります。また、含まれる物質も日々様々に変化します。この多様性に富んだ
廃水を、これら細菌を含む微生物の働きによって分解し無害なものにしてしまいます。活性汚泥法という処理技術
です。広く一般に採用されている方法で、皆さん方の住んでおられる市町村の浄化槽でも同じ方法を採用しています。
また、家庭の簡易浄化槽も原理は同じです。私の会社では水島に工場を建設した時から、この方法で廃水を処理
してきました。まだまだ世間では、このような処理技術があることさえ知られていなかった頃の事です。
この廃水処理、調子が良いときばかりではありません。先程も書きましたように、入ってくる廃水が様々に変化し
ますから、この廃水によっても調子は変わり、天候や気候によっても変化を見せます。細菌の働きは直接見える
わけではありませんが、様々な測定器の数値を通して間接的に見ることが出来ますし、沈殿地の状態からも
目視によって観察できます。
最悪の状態になっても、その後の処置さえ誤らなければ一週間位すると改善に向けての大きな変化が見られ
ます。悪くなるときにも急速に変化します。このように細菌レベルでは一週間位を大きな変化のサイクルとしている
ようです。言い換えればこれが微生物たちの時間といえるのでしょうか。彼らの世界は私達人間とは全く異なった
時間のサイクルを持っているようです。
私達の時間は太陽の運行に合わせて決められていますが、そんなものとは全く別の時間もあるのだと考える時、
時間とはいったい何だろうと改めて考えさせられてしまいます。現代人はめまぐるしい時間の流れの中で生活して
いますが、昔と同じようにお日様が出れば起きて、お日様が西に沈めば寝るという自然のサイクルの中で生活して
いる人達もたくさんいます。どちらが良いのか一口には言えませんが、そんな生活もあると言うことだけは忘れたく
ないものです。
2002年9月8日掲載
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