環境を科学する

先頃のニュースで、ふぐの養殖にホルマリン(ホルムアルデヒド)を使っているとして問題になっていました。ホルマリンと
言えば、かび臭い理科室でのホルマリン漬けの標本の数々を思い出します。ホルマリンは生物の標本には欠かせない
ものです。標本を腐らせずに保存できるという事は、それだけの殺菌力があると言うことではないでしょうか。
ふぐの養殖に、どんな理由があって使われているのかは聞き逃しましたが、恐らく雑菌などの繁殖を防ぐのが目的なの
ではないでしょうか。養殖は限られた環境の中で、たくさんの魚を飼育しています。しかも大量の餌をばらまきます。魚が
食い残した餌は海底に沈降し、海水を富栄養化させます。いったん汚れた海は、いくら広いからと言って、そう簡単に浄化
出来るものではありません。当然、色んな雑菌が繁殖します。そんな雑菌の繁殖を押さえるためにホルマリンは使われて
いるのではないでしょうか。
ホルムアルデヒド(ホルマリン)といえば建材の中などにも入っていて、シックハウス症候群の原因にもなっています。
シックハウス症候群は近年になって建材の中のホルムアルデヒドが原因のアレルギー症状だと分かって来ました。それ
までは何が原因でアレルギー症状が出るのか良く分かりませんでした。しかも症状が、家族みんなに現れるのではなく
限られた人に現れるため、ほとんど無視されるような状況でした。ところが、その事例が次第に増えて来るに及んで、
ただならぬ問題だと認識され始めたのです。
つい最近買った組み立て式のサイコロボックスの箱にも低ホルムアルデヒド製品と言う表示がありました。こんな商品
にも、そう言った表示をするぐらい、この問題は社会問題化して来ました。マスコミも何度か特集を組んでいます。番組
の中での患者さんの症状は大変深刻で、放っておけるような問題ではないことが良く分かります。
一方、環境ホルモンの問題も大きな社会問題となっています。私が環境ホルモンという言葉を耳にしたのは随分昔の
話になります。その頃、環境ホルモンなどと言う言葉は、どこを探しても見つかりませんでした。その時の話では、初め
原始的な生き物である貝の生殖器に異常が見つかり、問題視し始めたのが研究を始めるきっかけだったようです。
その後、異常は貝の生殖器だけにとどまらず、人間の生殖機能にも影響を与えているのではないかと言われ始めま
した。衝撃的だったのは、女児のお乳から母乳が出るとか、男性の精子が少なくなっているとか、色んなケースに
ついて聞いた記憶があります。また、異常分娩なども多く、妊娠初期の流産や奇形などもあって、公にはされていない
ものの、その数は年ごとに増えているとも話しておられました。
この話を聞いたときには、半ば眉つばもののような印象で聞いていました。しかし、その後、化学物質や環境ホルモン
などの問題が新聞やマスコミなどで頻繁に取り上げられるようになり、ただごとではないと感じるようになりました。
私も化学会社に勤務する一人として、その責任を痛感しています。と同時に、単に化学物質を非難するだけではなく、
化学製品や化学物質とどう付き合っていくのか、環境に負担をかけない方法はないのかといった事を真剣に考えて
行くべき時代になっているのではないかと思っています。
今や「ゼロエミッション」という表現で、廃棄物や環境排出物ゼロの生産を模索する時代になっています。そのため
には、多少のコストアップは負担しても、みんなで「ゼロエミッション」を目指さなくてはならないのではないでしょうか。
便利さや快適さの代わりには、それなりの負担が必要だと思うのです。
2003年6月14日掲載
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