春になって一番に目にするのはテントウムシだ。暦の中に啓蟄という日がある。年によって多少の差はあるものの、
テントウムシを見かけるのは啓蟄という日を境にしての頃だ。啓蟄とは「虫達が長い冬の眠りから覚め、穴から外に
でる事」をいうとある。そう言えばチョウチョが飛び始めるのも、この頃の事だ。
テントウムシの姿を見かけるという事は、餌となるアブラムシが出始めたという証拠でもある。虫達も餌なしでは
生きてはいけない。テントウムシ達は成虫も幼虫もアブラムシが大好きだ。従って、アブラムシの天敵はテントウムシ
ということになる。アブラムシという小さな虫の種類は実に多い。柔らかい葉の裏側などに群となって繁殖し、葉から
汁を吸い取っている。その量は大変なものだ。従って、アブラムシが付いた葉っぱは、縮れて小さくなっている。
アブラムシはアリ達と大変に仲が良い。アブラムシが吸った汁はアブラムシの体内を通る間に甘い汁となる。
この汁を求めてアリ達がアブラムシの周辺に集まる。アブラムシは見ての通り大変弱い昆虫なので、長距離を
移動できない。この移動を助けているのがアリ達だと言われている。アリ達は木から木へ、枝から枝へとアブラムシを
運び、アブラムシの繁殖を助けている。
アブラムシは単性生殖で増殖をする。従って、雄雌がいなくてもどんどん増えていく。そんな訳で、一旦繁殖を
始めると、すごい勢いで増え続ける。こうなるとテントウムシが少しぐらい居たからと言って全滅を図ることは
困難となる。果樹などは農薬の散布以外に撲滅の手段はない。しかし、アブラムシは温度や気候の変化を受け
易い昆虫だ。少し気温が下がっただけでも繁殖は止まってしまう。
桃の花が終わり小さな実が出来始めると、チョッキリゾウムシが活動を始める。この虫は体長が8ミリ位の
小さな甲虫だ。顔の部分が長く前に突きだしている。この姿が象に似ていることから、この名付けられたらしい。
チョッキリと言うのは、実でも小さな枝先でも、ハサミで切ったように落としていくので、こんな名前が付けられた
のではないだろうか。ながい鼻先が口になっている。ここにかぎ爪のような小さな歯が付いていて、大きくなり
かけた実に穴を開けたり、実の付け根の部分を噛んで実を落としたりする。実に始末の悪い昆虫で、この虫が
来始めると、小さな木であれば一日で全滅になりかねない。大急ぎで袋を掛けるのだが、それでも間に合わない
ときは農薬に頼る他はない。桃の木やなしやリンゴといった多くの果樹の実や穂先を落としてゆく。
チョッキリゾウムシと並んで始末の悪いのが、かめ虫である。例の臭い匂いを出す虫である。近年の温暖化
現象のためか、一冬越してしまうものが少なくない。そんな訳で、近年著しく被害が多くなりつつある。この虫は
桃などの幼果の汁を吸う。その量は並の量ではない。かめ虫に吸われた実はその部分の組織が死んでしまい、
ケロイドのように萎縮してしまう。多くは落果してしまうが、残ったものが大きくなっても商品にはならない。
カメムシの被害にはみんな困っている。
蜜柑の花が咲き始めたら、その臭いに誘われてカナブンが飛んでくる。どこから来るのだろうかと思うくらい、
たくさん群がっている。カナブンの足には鍵爪が付いている。この鍵爪で花の上をはい回ると、雌しべの下に
付いている実になる部分が傷ついてしまう。実が親指くらいになった時、表面の皮の部分が萎縮してくる。
明らかに、カナブンの足の爪によって傷ついた部分だ。カナブンは手で捕まえただけではどうにもならない。
それこそ次から次へとどこからか飛んでくるからだ。
気温がどんどん上がり始めると蜜柑の葉が白っぽくなってくる。葉裏を観察すると小さな赤い虫が這っている。
アブラムシよりも、もっと小さな虫である。これがダニである。ダニの種類も実に多い。家の中の畳や絨毯に
住んでいるものもいる。人間の顔の表面に住んでいるものもいる。犬や猫などの毛の中に住んでいるものもいる。
みんなダニの仲間である。
しかし、蜜柑の葉裏等にいるものは、家の中にいるものとは違う。葉の汁を吸って生きている。アブラムシと違い、
葉の葉緑素が抜けてくるらしい。それで葉っぱが何となく白っぽくなっているのだ。こうなると、もう農薬に頼る他は
ない。少しぐらいなら葉裏に水を吹き付ける方法もあるのだが、なかなか全てを退治することは難しい。
四季を通じて目にする昆虫と言えば、毛虫ではないだろうか。ほとんどが蛾の幼虫である。蛾の仲間で成虫で
害を及ぼすのはアケビコノハぐらいのものだ。毛虫の種類も実に多い。虫達によってはその葉しか食べないと
いうものもいる(代表的なのはカイコである)。しかし、多くは選り好みなく何でも食べる。
特に桜科の植物は好んで食べる。きっとおいしいのに違いない。特に桜の木に着くアメリカシロヒトリという毛虫は
実に大食で、大きくなると、むしゃむしゃと葉を食べる音が聞こえるほどである。褐色をした体は、他の毛虫のような
弱々しさを全く感じない。強く逞しく誠に始末が悪い大陸生まれの毛虫である。木の下に行くと大きな糞が落ちている。
数が多い時は糞の落ちる音がパラパラと葉っぱに雨粒が当たったときのように感じる事さえある。一度雨が降ると
糞が落ちた場所は茶色く変色をするほどである。
柑橘類の葉を好むのはアゲハチョウの幼虫である。柔らかい葉を好んで食べる。この虫を見つけたら早めに
捕まえて殺すしかない。しかし、うっかりつまもうものなら頭の部分からにょきっと角を出し、臭い匂いを発する。
この匂いは甘ったるい匂いではあるが我慢のならない強烈な匂いである。何度か脱皮して、大きくなるとさなぎに
なる。さなぎがやがては美しい「揚羽蝶」に変身をする。従って、柑橘類にアゲハチョウが近づいたら要注意である。
葉裏を見ると緑色の保護色をした小さな卵が産み付けられている。アゲハチョウの卵である。この段階でつぶして
しまうのが、もっとも効果的である。
柿の木に繁殖するイラガの幼虫は他の毛虫と異なり要注意だ。たいていの毛虫は見かけ上は毛がはえて怖そうに
見えるのだが、さして恐れるにはあたらない。しかし、イラガの幼虫は形も奇妙だがさわると猛烈な痛みを感じる。
そして、長く痛がゆい状態が続き、肌の弱い人にとっては絶対に要注意の毛虫である。
(見かけ上、毛はほとんど見えない)
柑橘類は大抵二度新芽が伸びる。二度目の新芽に付くのがエカキムシである。新芽が萎縮しているのを見つけ
たら良く観察して貰いたい。葉裏に小さな筋が綴られている筈だ。その先端部分に小さな白い虫が入っている。
葉ウラの表皮のすぐ内側を這っている。葉ウラを綴られた痕跡が丁度一筆書きのように見えることから絵描き虫と
言うらしい。この虫を退治することは容易な事ではない。毛虫のように捕まえて殺してしまうような訳にはいかない
からだ。従って、農薬に頼るしかない。それも出来るだけ早い時期が良い。 そう言えばエカキムシはエンドウも
大好きだ。エンドウの実が大きくなった頃、一面に繁殖している。エンドウの葉っぱは緑が濃くないから、良く観察
しないと分からないが葉ウラを綴っている。こうなるとエンドウの時期も終わりで、アラスカ等は実が大きくなり、
いつでも収穫が可能だ。
桃が熟し始めると腐れかけた桃に多くの昆虫が寄ってくる。代表的なのはカブトムシ、カナブン等だ。それに蝶も
飛んでくる。カブトムシと同じところでよく見かける茶色の羽をした蝶だ。そして桃やナシ等にとっては天敵とも言える
ような蛾がいる。アケビコノハである。この吸血コウモリのような蛾は夜になるとどこからともなく飛んでくる。袋の上
からでも張り付いて穴を開け、そこから果汁を吸う。汁を吸われた果樹は、そこが傷口になって腐り始める。
そこに先程の昆虫たちが来るというわけだ。
こんな訳で、収穫間近な桃やナシやブドウなどが次々とやられて、満足なものは一つもないという事になりかねない。
専業農家では蛾が嫌う黄色の蛍光灯などをつけたり、ネットを果樹園全体に張っているところもある。大変な費用と
労力がかかっている。
カミキリムシが好むのはイチジクの木だ。成虫はイチジクの木の成長が著しい夏にやってきて、新しく伸びた枝の
柔らかい皮を食べる。器用に皮の部分だけをかじっている。そして、おまけに卵まで産み付けていく。幹の部分を
良く観察すると、あちらこちらに小さな噛み傷が出来ている。その傷をつついてみると中に小さな白い卵が入っている。
これが孵化してやがては枝の奥深くに入っていく。そして枝のあちらこちらに排糞用の小さな穴を開け、そこから
木くずのような糞を排出する。こうして食欲旺盛なカミキリムシの幼虫は、イチジクの木をトンネルだらけにして、
やがて小さな枝を枯らしてしまう。こうなる前に樹液が流れ出したり、糞を見つけたら、その穴の中に注射針で農薬を
注入する。この方法しか幼虫を退治する有効な手だてはない。
こうして昆虫達の世界は様々に変化をしながら春から夏、夏から秋へと移り変わっていく。害虫と言われる虫達の
中には一年に何回も登場するものがいる。毛虫やアブラムシなどがそうである。
2002年5月13日一部修正
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