「ぽっぽや」

浅田次郎の原作を映画化したものである。
昭和38年頃を境にして、日本は石炭産業から石油産業へと原料源の転換を図ってきた。
九州や北海道の炭坑は相次いで閉山した。
北海道の幌舞炭坑もその一つだ。閉山となり、多くの人が町を去り、人口は激減した。
石炭産業の衰退は、石炭の輸送手段である鉄道をも路線廃止に追い込んだ。
旧国鉄幌舞線である。この映画は国鉄に一生を捧げた男の物語である。
多くの方がこの映画を見られたことと思う。鉄道一筋に生きた男と、その男を取り囲む人達の心温まる物語である。
映画は主人公佐藤乙松と彼の妻、そして無二の親友、そして幻となってよみがえる彼の娘等を中心に展開する。
舞台は雪の北海道。現実と追想を織り交ぜながらの巧みな画面構成である。
しかし、この映画を何よりも感動させるのは男の友情だろう。
しかし、男同士がここまで友情を交わすことが出来るのは、希有な話であろう。小説などには、そういったものが多い。
向田邦子の「あ、うん」等も、友達の女房をはさんでの奇妙な男の友情を描いたものだ。
滅多に目にする事の出来ない真の男同士の友情を、作家はなぜ書きたがるのだろうか。
現実には、なかなか、そうはならないからか、あるいは作家の夢であろうか。
男同士の友情とは言いながら、現実にはもっと生々しい、ぎこちないものではないだろうか。
長く尾を引く警笛の響き、蒸気を吐き出す力強い機関車の音、当時を知る人ならば誰でも感じる懐かしい音の響きだ。
蒸気機関車が勢い良く走っていた頃は、日本の戦後の復興期であった。
すべてが前向きに、力強く未来に向かって突き進んでいた時代であった。
蒸気機関車に引っ張られるものの如く、日本列島は未来に向かってばく進をしていた。
戦後が50年を過ぎ、太平洋戦争を境にして生まれた者達が佐藤乙松のように第一線を去り、そして去ろうとしている。
一筋に生きる。たやすいようで難しいことだ。しかし、その時代には多くの選択肢等はなく、そうせざるを得なかった。
ひたすら未来を目指し、技術立国日本を目指して高度成長期を支えてきた人達が、何の褒賞も何の名誉も勲章もなく
第一線を去りつつある。今日本は技術立国としての地位を他国に譲り、大きく陥没をしてしまっている。
これで良いのだろうか。この映画は現実の日本と交錯して見えてくる。もの悲しさの中に、これで良いのかと
問いかけてくるものを感じるのは、私だけであろうか。
佐藤乙松は誰もいない雪のホームで倒れ死んでいく。生涯を捧げた幌舞線とともに静かに消えていく。
蒸気機関車の警笛の音はもの悲しく、今も私の心に長く尾を引いている。 2000年4月25日掲載
原作:浅田次郎(第117回直木賞受賞)「鉄道員」
監督:降旗康夫 第23回日本アカデミー賞最優秀賞9部門受賞
出演:高倉健、大竹しのぶ、広末涼子、吉岡秀隆、安藤政信、志村けん、奈良岡朋子、田中好子
小林稔侍
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