
6月14日は世界史の中で特筆されるべき日であったと言っても過言ではないだろう。
ソ連邦が崩壊してアメリカとソ連という東西の冷戦時代が終結した。東西のドイツを隔てるベルリンの壁がなくなり、
東西両ドイツは統一国家として再出発をした。ここ10年近くの間に、世界は大きく変貌してきた。
中国は国家体制こそ社会主義ではあるが、積極的な資本主義経済を導入し、見た目には資本主義国となんら
変わりはないように見える。そして、資本主義の橋頭堡であった香港を併合した。
そんな大きな世界の動きの中で、ただ一つ不透明であったのが、北朝鮮であった。わざとらしくミサイルを飛ばし、
日本を脅してみたり、韓国に何度も潜水艦を潜入させて意味不明の行動をとったり、日本の領海内に不審な船を
潜入させたり、その行動には理解しかねるような事が大変多かった。金日成が亡くなって、その息子の金正日に
なってから、ますます不可解な行動は増えていた。国内は相次ぐ天災と国家経済の行き詰まりのために、多くの
亡命者や餓死者を出しているという報道も聞いてる。それでも、国民の多くは、ひたすら金体制の信奉者であり、
熱烈な信者であり続けている。少なくとも部外者にはそう見えてきた。
いつまでこんな事が続くのだろうと、いささかあきれ果てて見ていた。
韓国の金大中は大統領に就任して以来、太陽政策を続けてきた。対立だけでは物事の解決は出来ないと思っていたからだ。
太陽と北風の話は良く知られた話であるが、今回の成功は、正に太陽そのものであった。
長い間の民族の共通の願いであった、南北和解のチャンスが生まれたのである。
それは出来すぎた芝居の演出を見るように衝撃的であった。事実は小説より奇なりとは、こんな事を言うのではないだろうか。
金正日が空港に出向き、金大中を迎えたのである。最初はぎこちなかった南北の代表ではあったが、3日目は旧来
の知己のように抱き合って、別れの挨拶を交わしていたのである。
こんな場面を誰が想像したであろうか。歴史は思いがけないことから大きく転換するものである。固く錆び付いて
動かなかった歴史の歯車が、いま力強く動き始めたのである。最早、後戻りと言うことはあり得まい。
全てがトントン拍子に行くとは考えられないが、動き始めた歯車をもう誰も止めることは出来ない。
金正日は長く幻の人であった。あまりにも父金日成が偉大であったために、陰に隠れてその存在すら見えなかった。
父が亡くなり彼が全権を引き継いだ時、国内では少なからず動揺はあったはずである。その国内の動揺の静まる
のを待つのに、あるいは3年間という歳月は必要であったのかも知れない。正に、彼の外交デビューであった。
十分すぎるほどの時間と、観客を今か今かと待たせたあげくの幕開けは見事であったという他はない。したたかな
演出家が陰にいるに違いない。テレビに大写しになった顔には、何のけれんみも感じられなかった。ユーモアを交え
た話しぶりは、決して愚鈍な指導者ではないことが見て取れた。
それに引き替えてとは思うのである。日本の指導者達のあまりにも小さく貧弱な事は情けないくらいである。
経済大国と言われながらも、国際舞台ではいつも端に追いやられた存在であり続けている。同盟国とは口ばかりで
アメリカ外交はいつも日本の頭越しである。それは単に話し下手だとか、交渉が下手だという次元の話ではない。
政治には大きな識見と世界の動きを的確に見て取る洞察力、堂々とした民族の代表としての誇りが必要である。
今の政治家にそんな人がいるだろうか。私には見えてこない。
今回の総選挙でも、体制の大きな変化は生まれなかった。国民が変化を求めなかったからである。
今後も自公保の体制で行くことになるのだろうが、この世界史上まれにみる大きな変動期をどう舵取りをして
いこうというのだろうか。
2000年6月26日掲載
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