SARSという恐怖

動植物の進化とウイルスとは密接な関係があったと言われています。生命体と言うには、あまりにも原始的な生き物
であるウイルスは一旦動植物の中に取り込まれ、その細胞の中でしか生き続ける事は出来ないと言われています。
そして、ある時は宿主である動植物の遺伝子と自分の遺伝子とを入れ替えて、宿主の突然変異を促してきたとも
言われています。もちろん宿主の遺伝子を突然変異させるのですから、自らも変化してきたわけで、今までは全くの
無害であったウイルスが、あるとき、突然、牙を剥くようなウイルスになっても不思議ではありません。
1918年頃、スペイン風邪と呼ばれたインフルエンザが全ヨーロッパで流行し、猛威をふるった時の恐怖は計り知れ
ないものがあったと思われます。そんな事を思い起こしながら、今回のSARS流行の一日も早い沈静化を祈っています。
ウイルスが原因のスペイン風邪が大流行した頃は、ウイルスという存在すら確認できなかった時代でした。濾過器の
網の目まで抜けてしまうような小さなものを観察する手段がなかったからです。それだけに予防も治療も十分ではなく、
多くの人々が亡くなりました。この病気がウイルスによるものだと分かったのは、電子顕微鏡など観察整備が整った
ずっと後のことです。その後、次々と変種のウイルスが出てくる度に、多くの人がこの病気に罹り、運悪く命をなくした
人も少なくありません。
いずれも発生源は中国南部だと言われています。その理由は、この地域の生活と密接な関係があると言われて
います。この地域では豚をはじめガチョウやアヒルあるいは鶏がたくさん飼われています。インフルエンザウイルスは
人間が感染するだけでなく、豚などにも感染すると言われています。また、発症はしなくても、ウイルスがガチョウや
アヒル等農家で飼われている鳥達と渡り鳥の間を行き来していると言うことも明らかになっています。こうして人間、
鳥、豚といった種を越えて行き来する内に突然変異も起きているようです。従って、インフルエンザの場合、多くの
変種が存在し、それだけに今年は何型が流行するのか予測し難いのだとも言われています。
インフルエンザウイルスは渡り鳥によって運ばれることもあるようです。渡り鳥はガチョウやアヒル等、飼い鳥と同じ
環境にいますから、当然、彼らの排泄物にも接する事があります。また、逆のケースもあるわけです。どちらが先に
ウイルスを持っていたにせよ、両方を行き来する内に変種も現れ、中には種を越えて人間や豚にも取り込まれる事も
あったのではないでしょうか。渡り鳥がウイルスの媒体役であったとしても不思議な事ではありません。
今回のSARSも十数年前から鳥か動物の中に潜んでいたのではないかと言われています。それが突然猛威をふるい
はじめたものと見られています。エイズウイルスの場合も未だもってどこから入ってきたのか分かりません。人と人の
交流や接触の機会が増えれば増えるほど感染の危険は高くなります。これだけ世界的に行き来が多い時代であれば、
一度に多くの人が感染することも覚悟しなくてはなりません。
また、エイズは生殖という人の営みにとって、もっとも基本的な行為を通じて感染するだけに、やっかいな病気だと
言えます。先進国の中で、日本は今一番爆発的な広がりを見せる危険性がある国だと言われています。性年齢の
低下と社会的モラルの低下が拍車をかけています。アフリカの国々では感染の広がりを阻止することが出来ず、
一国の存亡すら危うくなるような事態に立ち至っています。日本がそうならないと誰が言えるでしょうか。性行為の時、
コンドームを使用するという簡単な事で感染の広がりをある程度阻止できるのです。
話は横道にそれてしまいました。中国ではSARSの広がりがやっと沈静化の方向に向かいつつあります。しかし、
完全に鎮圧できたかどうかの見極めは困難です。今回の急激な感染の広がりは、医療設備や医者や看護婦不足も、
その原因のようです。かつて中国では発展途上、裸足の医者という人達がいました。今その制度がどうなっているの
かは知りませんが、かつては農村部での医者不足をそんな形で補っていたようです。今もそうだとすると地方への
広がりが一番懸念されます。整った医療設備のある病院ですら感染を防ぐことが出来ないのですから、田舎に飛び火
したら大変な事になるのは目に見えています。
昨今、経済発展の著しい中国ですが、とんだところに伏魔殿がありました。なかなか良いことは長くは続かないもの
です。ともあれ、早くこの事態を収拾し、本来の生活を取り戻して貰いたいと思っています。
日本には今のところ入っていないようですが、これだけ人の行き来が多い国です。いつどこから入って来ないとも
限りません。くれぐれも用心を怠らないようにしたいものです。
2003年5月25日掲載
最近のニュースから 感染源はハクビシンという狸やアナグマによく似た姿形のジャコウネコ科の動物からではないかと言われています。
ハクビシンの体内にSARSウイルスとよく似た遺伝子を持ったウイルスが発見されたとの事です。
一方、カナダのトロントでは峠を越えたと思っていた矢先、SARS症状の患者が病院内から大量に出たとのニュース
が流れていました。この病院は近代的な病院だそうですが、近代的な病院から再発生したと言うことは感染ルートが
はっきりしない事や、容易に根絶することが出来ない等、まだまだ油断の出来ない感染症です。
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