
瀬戸内海では底引き網漁が盛んである。船のエンジンが大きくて高性能になってから、ますます拍車がかかっている
ように思える。ここ倉敷周辺でも盛んに行われている。船のエンジンの性能の違いは歴然としている。
かつて会社の慰安会で底引き網漁を頼んだ事がある。その際来た船は見るからに古めかしい船であった。
沖に出て網を下ろした途端に船は前に進まなくなり、船から眺める遠方の景色は全く変化しなくなってしまった。
抵抗が大きくて船が前に進まないのである。そんな訳でわずかな海域を引き回してやっと引き上げてみると、
成果はほとんどなくがらくたばかりだった事がある。
一方、別のグループで行った時には高性能の船であった。エンジンも大型トラック並のものだということで、船の
舳先が持ち上がる位、どんどんスピードを上げて引っ張る。船にはお客を飽きさせないようにカラオケセットまで
用意してあって、観光船並の設備だ。景気の良い歌謡曲を流しながら沖を走る。
スピードを上げて引っ張るだけに網を引く範囲も広い。従って成果も大きい。カレイやシタビラメといった底ものの魚が
たくさん入っていた。家に帰り、庭に新聞紙を敷き詰めて山分けをした覚えがある。
底引き網では時に思わぬ拾いものをすることがある。外海はともかく、ここ瀬戸内海の汚染はひどく、ビニール袋や
空き缶、空き瓶と言ったガラクタがたくさん入ってくる。獲物はそれらガラクタをかき分けながら拾い集めると言った
具合だ。ところが何度か底引きに行っていると、古い蛸壺などを拾うことがある。いかにも手ひねりのゆがんだ
素焼きの蛸壺である。フジツボなども着いていて風流である。みんなの了解を得て貰って帰り、大事に保管している。
今持っているような完全な形のものは、なかなか手に入らない。少なくとも江戸時代以前のものではないだろうか。
あるいは、もっとそれ以前のものかもしれない。
そんな訳で底引きに引っかかったものが、近隣の博物館などにもたくさん展示されている。それらの多くは一万年
以前、瀬戸内海がまだ陸地であった頃たくさん棲息していた、ナウマン象やおおつの鹿の骨等である。
倉敷の博物館にも大きなナウマン象の復元骨格が展示されている。
最近次第に漁が少なくなったと聞いている。原因は色々あるだろうが、多くは乱獲によるものではないだろうかと思っている。
昔ならごく限られた範囲でしか引けなかった底引きも、船の性能が良くなるにつれて、多少の岩礁地帯でも難なく
引いて行く。魚の好む岩礁地帯もたくさん壊されているのではないかと懸念している。底引きは一本釣りと違って
一網打尽である。大小の関わりなく魚を掬い取っていく。従って稚魚などは、がらくたの中で引きちぎられてしまうの
ではあるまいか。これは私の想像である。専業の方が読まれて、おしかりを受けるかも知れない。
ともあれ海の汚染、乱獲、海砂の採取どれをとっても、瀬戸内海の魚達にとっては厳しい環境の中にある。
毎年大量の稚魚を放流しているが、いっこうに魚の増える気配はない。
豊かなる海も今や瀕死の状態だといっても過言ではない。もっと海を大事にしたいものだ。
そうすれば、海は必ず豊かな恵みをもたらしてくれるものと確信をしている。瀬戸内海にいつの日か、かつてのような
魚島と言われる季節が戻って来る日を願ってやまないのである。
2000年6月10日掲載
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