捨てられていた植物たち

蔦(つた)
私の元には拾って育てている二つの植物がある。一つは蔦である。この蔦は毎年春になると新しい芽を
吹き、秋になると紅葉して葉を落とす。大食の大きな芋虫が葉を食べてしまい、気付かないうちに軸のみ
になっていることもあるが、そんな事がなければ整った形の盆栽である。植木鉢も蔦の形に似合った濃い
茶色の四角な素焼きの鉢である。
この蔦は、私の手元に来て五十年以上になる。私は子供の頃から植物が好きで色んなものを植えていた。
この蔦は、その頃拾ったものである。私達の遊び場所であった高屋川の堤防近くに上品なおじいさんが
住んでいた。おじいさんは植物が好きだったようで、家の横には大きな畑があったし鉢植えの草花や盆栽も
たくさんあった。
恐らくはおじいさんが植え替えの際に捨てたものだと思われるゴミの中にこの蔦はあった。葉の付いて
いない軸だけの蔦が何故目に止まったのか思い出せない。一見木の枝の一部にしか見えないこの蔦を
拾ってきて植えたのが始まりだった。以来、さしたる手入れをすることもなく、また、同じ鉢に何年も植えた
ままで今日に至っている。
実家が七日市の借家から古市の新しい家に引っ越した時も捨てられる事はなかった。この経緯を知って
いるのは弟だけである。彼が知っていたからこそ私が家を出てからも捨てられることなく今日に至っている
のである。こうして私が家を建て、今の場所に引っ越した時からここに運ばれ今日に至っている。実に
年期の入った蔦である。
また、この蔦は恵まれた環境ではないせいか、拾ってきた時から今日までほとんど大きくなっていない。
同じ形と大きさを維持している。そう言う意味でも珍しい植物である。
駿河蘭(するがらん)
もう一つは駿河蘭という東洋欄である。総じて東洋蘭は形や色だけでなく香りを珍重されてきた。一般的に
匂いの良い植物は地味で目立たない植物が多い。色は白、形は小さく原種に近いものの方が多いようで
ある。薔薇やカサブランカ(ユリ)のように例外もある。東洋蘭も色や形に顕著な特徴はない。どちらかと
いうと地味な植物である。それゆえか駿河蘭は特に匂いがよい。何とも言えず爽やかな匂いを発する。
私が労働組合の中央執行委員として大阪へ通っていた頃、楽しみの一つは昼休み時間を利用しての
散歩だった。梅田から本社の近くまでの地下街や道路が散歩道だった。特に梅田の阪急デパート付近は
楽しみな散歩道だった。と言うのも倉敷周辺には見かけないような大きな古本屋さんなどがあったからだ。
そんな珍しい店の一つが鉢植えの植物等を売っている店だった。サボテンや観葉植物などの他、今は
珍しくなくなったシンビジュームなども売っていた。駿河蘭と出逢ったのは夏だった。たくさんの植物の中から、
得もいわれぬ爽やかな匂いが流れてきた。何だろう何の匂いだろうと匂いの元を探していると、この駿河蘭
だった。駿河蘭という名前だと知ったのもこの時が初めてだった。値段を見ると決して安くはなかった。
だからといって手が出ないほど高いものでもなかった。早速。店員さんを呼んで買って帰ることにした。
それが今ある駿河蘭の一鉢である。
それからずっと後に日本合成の西富井社宅に行った時だった。全員が笹沖社宅に移ってしまい社宅の
敷地が売りに出される時だった。畑だったベランダの軒先にサボテンの鉢植えと一緒に放り出されていた
のが、もう一鉢の駿河蘭だった。葉先は茶色になっていて決して健康そうには見えなかったが、枯れては
いなかった。鉢毎持ち帰り、植え替えて手入れをしている内に元気を取り戻し、バルブも少しずつ増え
始めた。そんな事から、今、二鉢の駿河蘭がある。毎年、梅雨頃から梅雨明け頃にかけて幾つもの花を
付け、良い匂いを放っている。昨年は秋口の涼しくなった頃にもまた咲いた。一年に二度咲いたのである。
海棠(かいどう)
その他、大阪から買って帰った植物には姫リンゴや海棠がある。残念ながら姫リンゴは枯れてしまった。
幹へ害虫が入ったからだ。そして海棠は庭で大きな木になっている。鉢植えでは窮屈そうだったので地面
に下ろしてやったら急に大きくなり始め、今では立派な庭木になっている。毎年たくさんの花を咲かせて楽し
ませてくれている。
牡丹(ぼたん)
その当時、本社の中にまで苗木を売りに来たおばさんがいた。その人は島根県の大根島から来たと話して
いた。彼女が背負ったおおきな竹製の籠の中には、小さな苗木のボタンがたくさん入っていた。私は行商の
人に弱い。何とか売り上げに協力してあげたいと思うからだ。この情けが裏目に出て何度も騙されている。
それでも頼まれるといやとは言えない。この時もおばさんの姿を見てついつい同情してしまった。そして一本
だけボタンの苗を買った。苗はしっかりした苗だったが手入れが悪く何年か後に枯れてしまった。毎年、ボタン
が咲く季節には思い出す事である。
2004年6月13日
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