小さな池の物語
畑にあった古い野壺にメダカを飼っている。この中でメダカを飼い始めて七、八年も過ぎただ
ろうか。さしたる世話もせず、忘れた頃に思い出したように餌をやるくらいなものである。それで
もメダカたちは何世代か生き続けている。
先日、久々に枯れたホテイアオイを取り除いてやった。すると一冬越したメダカたちが一斉に
水面に浮いてきた。十数匹いただろうか。この寒い冬を餌もなくどのように過ごしてきたのだろ
うか。そう言えば昨年の夏当たりから緋メダカの姿が見えなくなっていた。絶えてしまったのだ
ろうか。今は黒いメダカばかりになっていた。
買ってきたばかりの餌を撒いてやると早速水面に顔を出して盛んに食べ始めた。実に可愛い
ものだ。よく見ていると、そんなメダカたちに混じって小さな巻き貝が浮上してきた。壺の壁を伝
って浮上してくるものばかりではなかった。中には壺の底から一挙に浮かんでくるものがいた。
巻き貝は這うものとばかり思っていた私にとっては不思議なものを見るような気持ちだった。
明らかに餌を目指して浮かんできたものだった。貝の仲間であるクリオネは天使のような姿を
して海中を泳ぐようだが、さすがに巻き貝にその能力はない。しかし、浮かんだまま口を上にし
て流れてくる餌を食べていた。
そして、更に信じられないような光景を見た。水の中をダンゴムシがはい回っていたのだ。ダ
ンゴムシは地方によって様々に呼ばれているようだが、触れると灰色の体を丸くして動かなくな
ってしまう虫である。恐らくムカデなどと同じような原始的な形質をそのまま残した虫ではないだ
ろうか。どのようにして水の中で呼吸をしているのだろうか。しばらく見ていたが、いっこうに水面
に出てくる様子はなかった。
(インターネットで調べてみますと蟹やエビの仲間とのことです。節足動物門甲殻網等脚目だそ
うで、私達が良く目にするのは「オカダンゴムシ」だそうです。)
彼らにとって小さな池とも言うべきこの壺の中にも私達の知らない世界があるようだ。メダカ
たちが餌をやらなくても生き続ける事が出来るのは、かろうじて命を繋ぐだけの餌になるものが
あるに違いない。それは私達人間には分からない微生物だろう。このように小さな壺の中も彼
らだけの小さな宇宙になっている。小さな命はそれより大きい生き物の餌になり、小さな食物連
鎖の中でお互いの命を繋いでいるようだ。
2005年4月20日掲載
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