釣りバカ日誌

羽田空港から都内に向かう東京モノレールの車窓から見下ろすと屋形船が係留されています。この景色、どこかで
見かけたような景色だなと、ふと思い出したのが「釣りバカ日誌」という映画の一こまです。撮影に使われた場所とは
多少異なる景色なのですが、こんなところが東京湾に面したあちらこちらにあるのでしょうか。
「釣りバカ日誌」のハマちゃんは建設会社の営業マンです。しかし、仕事中でさえ常に釣りの事で頭の中はいっぱい
です。とある出来事から、自分の会社の社長さんと親しくなり、社長さんの釣りの指南役になります。二人の関係は
二人だけが知っている秘密です。社長さんはハマちゃんと家族ぐるみのつき合いをしています。社長さんのきまじめさ
とハマちゃんの脳天気さとのコントラストが実に面白い映画です。この映画の魅力は撮影に使われる場所が一作毎
に異なることです。「フーテンの寅さん」の映画がそうであったように、この地方ロケが、この映画のもう一つの魅力に
なっているような気がします。
ハマちゃんは早朝の釣りに行き、会社に遅れそうになると、いやがる遊魚屋の友達を説得し、釣り船を走らせて川を
遡ります。そして会社近くの手頃なところで舟を下り、会社に駆け込みます。隅田川のほとりたたずんでいると、ふと、
そんな景色も見えてきます。
日本はバブル崩壊以来、全く元気がありません。そんな時代にあって、ハマちゃんの生き方について考えることが
あります。日本中が金儲けに走りバブルに浮かれていた頃、ハマちゃんのような生き方をしていたら日本はどう変わって
いただろう。ハマちゃんの生き方は極端としても、彼のような人生を楽しむような生き方をしていたら、もっと日本は違う
国になっていたのではないだろうか。そんな事を考えていると、この映画が痛烈な現代社会に対する風刺映画のようにも
思えてきます。黙々と自分の生活さえ振り向くことなく働き続けて来た結果が、今日のこの姿なのでしょうか。少なくとも
会社に自分の人生の半分以上を託してきた、その結果がリストラではあまりにも惨めです。
「釣りバカ日誌11」の中では、時代を反映して社長さんは会社の行く末を考えて悩みます。悩んだあげく選んだ結論は、
社員のリストラではなく、社員は貴重な会社の財産だと言うことでした。コンサルタントの勧めるリストラを、自らが責任を
とるという決断をして、苦しくてもみんな力を合わせて会社を建て直すために頑張ろうと言うものでした。
映画と現実とは異なると言う人がいるかも知れませんが、リストラは一番安易な方法です。もっと選ぶべき方法は、
いくつもあるのではないでしょうか。隅田川のゆるやかな流れをぼんやりと眺めながら、ふと「釣りバカ日誌」のシーンを
思い出したのです。
2002年7月31日掲載
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