運命の巡り合わせ

歌手天童よしみさんは美空ひばりさんにあこがれて歌手になることを目指したと話していました。彼女と美空ひばりさん
との出会いは、美空ひばりさんが演ずる劇中において子役として採用された事がきっかけだったそうです。元々、歌は
大好きだったので、美空ひばりさんとの出会いによって、ますます加速されたのではないでしょうか。
しかし、若くして華々しい歌手デビューとは裏腹に、その後はヒット曲にも恵まれず不遇の時代が長く続きました。そして、
「道頓堀人情」との出会いで再デビューしたのです。その間、十年余の歳月が流れました。
彼女の声質や歌い方は、あこがれの先輩歌手である美空ひばりさんに非常によく似ています。歌のうまさにおいては
美空ひばりさんをしのぐようなものがあります。しかし、歌謡界に於いて同じ様な歌手二人は必要ありません。
従って、歌謡界の大御所的存在であった美空ひばりさんが元気で活躍している間にあっては、日の目を見ることは出来
なかったのかも知れません。ひばりさんが他界して初めて、本格的に世に出るきっかけがつかめたような気がします。
歌手は良い歌との出会いがなければ、いくら歌唱力があると言っても売れることはありません。歌との出会いは人との
出会いでもあります。作詞家や作曲家との出会いがなければ良い歌は生まれてきません。従って、こんなところにも
運命の不思議さがあるのだろうと思います。あこがれていた人が生存中には世に出ることが出来ず、その人が亡くなって
から後を埋めるように表舞台に出てくる。こんな不思議な巡り合わせは、そう数あるものではありません。
美川憲一さんは一頃売れ筋の歌手でしたが、いつしか表舞台から姿を消していました。人々が忘れかけた頃、物まね
の天才とも言うべきコロッケが登場し、美川憲一さんを知らない世代までが美川憲一像を思い描くようになりました。
本物より偽物の方が売れるという奇妙な現象でした。それがきっかけで再び美川憲一さんは注目されはじめ、表舞台に
再登場して来ました。そして、あの派手な衣装が売り物になって話題性を取るようになったのです。もちろん、彼自身の
キャラクターの特異性や歌のうまさもあるのですが、コロッケの存在抜きに語ることは出来ません。人の縁や出会いと
いうものは実に不思議なものだと思うのです。
天童よしみさんは美空ひばりさん亡き後、彼女の歌を歌い継ぐ第一人者として自他共に認めるところです。その声質や
歌い方には、在りし日の美空ひばりさんをほうふつとさせるものがあります。特に彼女が晩年歌った「川の流れのように」
等はひばりさんを偲んであまりあるものです。
出会いとチャンス、これは誰にでも必ず訪れるものです。その機会が来たら逃さないように、日頃からの自己研鑽を
怠りなくしておきたいものです。天童よしみさんは表舞台から姿を消した後も決して歌を諦めないで、カラオケ教室などを
開いて、いつか再デビューの日が来るのを待ち続けていたと言います。努力と忍耐なしにはチャンスも出会いも訪れては
こないのです。
ちなみに、私は美空ひばりさんのファンの一人でもありました。そして今は天童よしみさんの歌をこよなく愛しています。
先日も彼女の歌謡ショーに行って来ました。彼女の歌唱力には人を酔わせるものがあります。持って生まれた才能で
しょうか。それとも彼女の努力でしょうか。
2002年9月8日掲載
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